そんな言葉を使って

あるいは、アルバイトの口がないから、そんな言葉を使って、四六時中デ トをしているんです」というんだった。そして、日本の女性は、古い時代には、もっと素晴らしい相聞歌をもっていたのにと気付いたというのだった。ほ「そして、江戸時代に生れた惚れるという言葉をあらためて思い出したんです」という。「ホレテ:::」と迫りたいもの さんのような年齢の女性が「惚れる」という言葉を再認識したのに、おれは樗いたもんだよ。今のお嬢さんの年齢で、惚れたとか、惚れられたという言葉の表現は、ほとんど用いないだろう。それをさんは、再認識したというんだよ。「あんなに素晴らしくって、いい言葉はありませんわ。文字から考えても素晴らしいわ」というんだ。「文字から・・・・・・」たちま「ええ、惚れるって字は、 (りっしんべん)に忽ちというツクリでしょう。あれがいいんです。りっしんべんというのは、原型は心でしょう。二人が逢えば、たちまち心がときめく、たちまち燃えあがるって意味が含まれているんです。とても、味のある字だと思いましたわ」と、彼女はいうのだった。「愛するという字が日本に入ってきたのは、明治時代の、それも後期じゃないかしら。そりゃ、もっと古くからあったと思うけれども、一般に文学の上に現われたり、人の口にのぼるようになったのは、ごく新しいでしょう」というのだ。たしかに、恋はあったが、愛というのが一般化されたのは、西欧文化の影響だと思われるのだった。「なんでも外国から入って来たものが素晴らしいと思う傾向が日本の男性にも女性にもあるんじゃないかしら。これは、大変な間違いだと思うのよ。あたしは、だから、惚れるという表現をこれからもずっとしようと思うの。でも、あたしが口にすると、日本から来た男性も女性も、なんて古くさいことをいう女だろうって顔をするのよ」と さんはいったものだ。さんは、ロンド γ生活、パリ生活、そしてスペイン生活の中で、日本語の、愛するに適して、さらに、それ以上の味のある言葉を探し出したのだった。おれは、とてもいいことだと思った。惚れるという言葉を死語にしてしまうことはなにもないと思った。「あなたを愛している」というよりも、「あなたにホの字なの」といった方が、「愛して・・::」と迫るよりも、「ホレテ:::」より日本人らしいと思うのだ。幡随陪えといった方が、徴笑ましいじゃないかと思ったもんだよ。お嬢さん、この さんの言葉をどうとるだろうか。